イサカ雑感

二週間が経ち,ようやくこちらの雰囲気にも慣れてきた.いくつか,ほぉ,と思ったところをメモしておこうと思う.適宜更新.



図書館

Cornellには21の図書館があり,どうやらそれぞれが専門に特化した図書を所蔵している(らしい).自分が出入りしているのは研究室から一番近いMannなのだが,ここは"life sciences, agriculture, human ecology and applied social sciences"の本を置いている,という具合である.
どの建物も余裕が有ってとても過ごしやすい環境になっているというのはいうまでもないが,ちょっと感心したのはMannでの飲食や携帯・会話禁止の区分.まず,図書館入り口のロビーは飲食・携帯自由.テイクアウトのカフェがあり,ソファやテーブルがおいてあってくつろげるようになっている.一方,図書館の中は"NO FOOD",ただし会話禁止の区分については階によって異なり,基本的に上の階に行けば行くほど厳しくなる.つまり,場所によっては普通に会話もOKだし,少し上の階に行けば会話NG,飲み物OKだったりする.
これって,猫も杓子もすべて禁止の日本の図書館と比べると,合理的なしくみである.図書館に来る人だっていろいろな目的があるだろうし(みんなでワイワイ勉強,ひとりで調査,暇つぶし...),それぞれにあった居場所を提供しようとしている姿勢がみえてすごく好印象.


追記:正しい区分をもとにちょっと修正.


実験室

アメリカを訪問する日本人研究者がおそらく必ず指摘するのが,実験室のなかに自分の机があること,なんじゃないだろうか.日本では規制で絶滅しかけているレイアウトがここでは主流である.(ちなみに日本では「実験室」と「居室」に完全に分かれていて,学生はそこを行き来して実験をするパターンが多い.)
訪問中の研究室でも,学生は自分の実験用ベンチと,その横の机(しかも結構な割合でそれは同じ実験用長机をビニールテープか何かで区切っているだけ)を与えられている.(もちろん実験エリアでは手袋をする.また,かならずしも各人のスペースに備えられていない機材については共用だし,特殊な機材やP1については専用の部屋がある.)実際にそういうレイアウトで実験してみると,資料を参照しながら実験したり,反応を仕掛けておいてチラチラ確認しながらデスクワークできたりと,何かと便利.ただ驚いたのは,デスクワーク用の机では軽い飲食ならOKというところ.自分や周りが実験している横のスペースで,普通に飲み物を飲んだりお菓子をかじったりしている人がいるのである.良く言えば研究ライフが生活の一部に溶け込んでいるとも言えるのだが,コンタミとか大丈夫なんでしょうか,とちょっと心配にもなったりもする.とはいえ,自分のデスクと実験スペースがきちんと決まっているおかげで,比較的きれいに使っている机がおおい.自分が管理する場所が決まっていると,愛着も湧くのかなぁ.よくある,「机の上に置きっぱなしで半年くらいたつんだけど捨てていいのかわからない誰かのエッペンチューブ」の類がないだけでも,精神衛生上良いですよね.

概して思うに,この国はすべての物事についてその責任の所在を予め定義するとともに,同時に自分がする仕事というものがその範囲内に徹底されている.先に自分がやらなくちゃいけない範囲をきっちりと決めて,それ以外はわからないしやらない.それは「管理の範囲」だったり,「機材の使い方」や「時間」だったりするし,たとえば研究室の仕事でも学生は研究室のゴミ捨てや掃除といったことをする必要がないかわり,自身の研究や機材の管理については相応のプロフェッショナリズムを自然と求められることになる.極めて家内制手工業的な香りが残り,それを良しとする日本を見慣れた自分にとっては,ある種正反対の性格を持つ運営方針をもった実例に触れることができて大変面白い.