人工代謝系で駆動されるDNA材料・機械について

先日Science Robotics誌に掲載された我々の論文について,日本語で簡単に紹介してみました.よろしければご覧ください.




どういう内容なの?

「人工代謝系」でつくるDNA材料

  • DNA分子がひとりでに合成され,さらにその分子同士がひとりでに集まって構造になり,そのあと分解されていくようなDNA材料をつくりました.
  • これら一連のプロセスは自律的に行われます(外からひとが操作しないでも,勝手にかたちがつくられ,その後単純なフィードバックで勝手に消えていく,というわけです).
  • 一度つくったら,基本的には「静的」である一般的なものの作り方とは違い,生き物は常に自らの身体を更新し続けています.ざっくりいうと,我々は,食べ物によって素材とエネルギー源が供給されることで新しい材料(今回の場合,階層的な構造)をつくり,また,要らなくなったものを分解して排出することで,自らの身体を維持しているわけです.この研究は,そのような生き物らしい特徴のひとつである代謝を,「材料を動的に作り出す仕組み」として人工的に作れないか,というところに着目して行われました.
  • 生き物が実現している複雑な代謝をそのまま使うのではなく,極めて単純化したシステムを,酵素によるDNA分子の合成・分解とマイクロ流体デバイス内でのアセンブリを組み合わせることで人工的に実現しました.(人工代謝系,と我々は呼んでいます.)

スライム型「機械」

  • ひとりでにかたちができて,そのあとひとりでに消えるようなこの材料を利用して,移動しているように見える機械をつくりました.
  • かたちができる/分解されるタイミングをプログラムすることで,スライムの「身体」がひとりでにできたあと,その「頭」の側が常に構造を作り,「尻尾」の側が常に分解されていくことで「動く」というわけです.(現象としては「波」に近いといえます.)
  • 人工代謝系で実現される自律的な構造生成・分解を,「構造の移動」に変換したという点で,人工代謝を機関(からくり)として駆動する機械といえるのではないかと考えています.
  • このプログラムをさらに発展させて,二体のスライムが徒競争をするような振る舞いも作ることができました.(残念ながら負けたスライムは分解されてしまいます....)

どういう意味をもつの?

  • もちろん現段階では極めて単純な実現方法ではありますが,生き物らしい特徴の一端を,分子のレベルから人工的に構築した材料で実現し,またこれを用いることで,あたらしいタイプの機械が作れたといえます.
  • ポイントは,生き物っぽいけれど,生物ではない,という点です.細胞などの生物システムを利用しなくても,もしかすると生き物のような特徴を持った機械を分子レベルから作れるかもしれない,という目標に向かって一歩前進できたところに,この研究の面白みがあると考えています.
  • このように「移動」するスライム型の機械の実現は,生き物のように振る舞う分子ロボットの基礎となる技術として期待されます.
    • あくまで将来的な展望としてですが(今の時点ではできません),たとえば,生成・分解のサイクルを繰り返すなかで機能の進化をさせたり,また自己複製するような機械にもつながると考えています.
  • もちろん,この生き物のような特徴を持つ材料・機械を使った応用も考えられます.論文では,たとえばこれを利用したDNA/RNA検出を紹介しています.

(2019/04/25 & 26)すこしだけ加筆・追記しました.